このほど、中華人民共和国個人所得税法の改正案が第13期全人代常務委員会第5回会議を通過し、来年1月1日より施行の運びとなりました。
これは中国に在住する外国人にも大きな影響を与える可能性がある改正ですが、その詳細については関連細則の公布を待って判断する必要があります。
とはいえ、中国子会社に駐在員を派遣していたり、社員を年の半分以上中国に出張させているような企業様にとっては今後のタックスプランニングに関わる重要な改正ですので、暫くは状況を慎重にウォッチして頂きたいという意味で、特に外国人に関わる改正内容をお知らせしたいと思います。
外国人に関係してくる改正内容は、主に以下の通りです。
1.年間183日以上中国に滞在する人間は「居住者」(第1条)
「中国国内に住所を有するか、または住所がなくかつ一納税年度内に中国国内において累計して満183日居住する個人は、居住者とする。居住者個人が中国国内および国外から取得する所得は、本法の規定により個人所得税を納付する。
中国国内において住所がなくまた居住もしない、または住所がなくかつ一納税年度内に中国国内において累計して183日未満居住する個人は非居住者個人とする。非居住者個人が中国国内から取得する所得は、本法の規定により個人所得税を納付する。
納税年度は、西暦1月1日から12月31日までとする。」と改正されました。
現行規定では、居住者は「満1年居住する個人」ですので、これが183日に短縮されたことになります(ちなみに、住所を有するというのは、単純にそこに居住しているという意味ではなく、戸籍、家庭、経済的利益等の関係により、中国国内に習慣的に居住することを指しますので、駐在員が住所を有する個人となるケースは基本的には考えられないというべきでしょう)。
現行の税制では、個人所得税法実施条例その他の関連通達を併せ、外国人に適用される税制はかなり複雑なものになっています。特に、この「中国国内及び国外から取得する所得」という点については、その支払が中国企業からか外国企業からによっても負担の要否が分かれますし、5年以上居住する外国人については、全世界所得について中国で税務申告を行わなければならないという規定ぶりのため、それを回避するために駐在員を一時帰国させるなど、各企業が様々な対応を行っています。
また、非居住者については、従来から暦年で中国での滞在が183日未満の場合は日中租税協定が適用され、個人所得税が免税となっています(ただ、これについても給与がどの国の企業から支払われるか、などの条件があります)。
今後お気をつけ頂きたいのは、こうした現行の取扱いがどのように変わるかという「関連通達の改正内容」です。変更内容によっては、これまで常識となっていた駐在員や出張者の税務処理が大きく変わってくる可能性もあります。
2.課税所得の改正(第2条他)
今般の改正では、総合課税と分離課税の対象税目が調整されました。
現行の個人所得税法
以下、全て分離課税
1.賃金・給与所得
2.個人工商業者の生産経営所得
3.経営請負所得と経営リース請負所得
4.役務報酬所得
5.原稿報酬所得
6.特許権使用料所得
7.利息、配当、利益分配所得
8.財産賃貸所得
9.財産譲渡所得
10.一時所得
11.その他所得
改正後の個人所得税法
1~4は総合課税、5~9は分離課税
1.賃金・給与所得
2.役務報酬所得
3.原稿報酬所得
4.特許権使用料所得
5.経営所得
6.利息・配当・利益分配所得
7.財産賃貸所得
8.財産譲渡所得
9.一時所得
3.税率表の調整(第6条、附表他)
ここでは賃金・給与所得等に適用される総合所得の税率表のみ掲載します。
個人所得税税率表一(総合所得適用)
等級 | 前年課税所得額 | 税率(%) |
---|---|---|
1 | 36,000元以下 | 3 |
2 | 36,000元超144,000元以下 | 10 |
3 | 144,000元超300,000元以下 | 20 |
4 | 300,000元超420,000元以下 | 25 |
5 | 420,000元超660,000元以下 | 30 |
6 | 660,000元超960,000元以下 | 35 |
7 | 960,000元超 | 45 |
(※)前年課税所得額とは、毎納税年度の収入から基礎控除60,000元及びその他控除が認められている金額を控除した額です。非居住者の場合、総合課税対象の所得を月額換算して課税額を決定します。
4.基礎控除額の増加と外国人追加控除の廃止(第6条)
現行の個人所得税法では、外国人の給与所得の控除額は、基礎控除3,500元のほか、1,300元の追加控除が認められています。改正後は基礎控除額が月5,000元に統一されることになるため、外国人の追加控除は廃止されることになります。
今回は改正のごく一部の内容を簡単に紹介しましたが、繰り返し申し上げたいのは、今後出てくる関連通達の重要性です。年末~年始にかけて公布される個人所得税関連の通達を余さずフォローし、必要に応じて専門家に対応の要否を確認する必要がありますので、今後の動向にはくれぐれもご注意下さい。
弊社でも詳細が明らかになり次第、続報をお伝えして参ります。
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