法院中国の最高人民法院はこのほど、≪知的財産権法廷に係る若干の問題についての規定≫を公布し、2019年1月1日より施行を開始しました。

2017年以降、知的財産権事件の上訴審理体制構築が国家の課題として掲げられ始めており、2018年10月には全人代会議で≪専利などの知的財産権事件の訴訟プロセスに係る若干の問題についての決定≫が公布されました。今回の規定はこれを受けて公布されたもので、特許をはじめとする技術的専門性が高い知的財産権の上訴案件の審理が基本的に最高人民法院に集約されることになります。

知的財産法廷は最高人民法院が北京に設立する常設機関で、主に専利(特許・実用新案・意匠を含む知的財産権の総称)等の技術的専門性が高い知的財産権の上訴案件を審理する機関と定められています(第1条)。
また第2条に、知的財産法廷が審理する具体的な案件が列挙されています。

知的財産権法廷の審理対象

(1)高級人民法院、知識産権(=知的財産権)法院、中級人民法院が下した発明専利(以下、特許といいます)、実用新型専利(以下、実用新案といいます)、植物新品種、集積回路配置設計、技術的秘密、コンピュータ・ソフトウェア、独占に係る第一審民事事件の判決・裁定を不服とし、上訴する案件

(2):北京知識産権法院が下した特許、実用新案、外観設計専利(以下、意匠といいます)、植物新品種、集積回路配置設計の権利付与・確定に係る第一審行政事件の判決・裁定を不服とし、上訴する案件

(3):高級人民法院、知識産権法院、中級人民法院が下した特許、実用新案、意匠、植物新品種、集積回路配置設計、技術的秘密、コンピュータ・ソフトウェア、独占の行政処罰に係る第一審行政事件の判決・裁定を不服とし、上訴する案件

(4):全国範囲で重大・複雑な、(1)~(3)でいう第一審民事事件及び行政事件

(5):(1)~(3)でいう第一審事件の既に法的効力を発生した判決・裁定・調停書に対し、再審・控訴などの審判監督体制を適用する案件

(6):(1)~(3)でいう第一審事件の管轄権争議、罰金、勾留決定申請再議、審査期限延長申請などの案件

(7):最高人民法院が知的財産権法廷で審理するべきと判断したその他の案件

ここで一度、中国の訴訟制度の大枠を見てみましょう。
中国の裁判制度は「四級二審制」とされており、基層人民法院、中級人民法院、高級人民法院、最高人民法院の四つの等級の人民法院(裁判所)から構成され、当事者が第一審の判決に不服な場合は、一度だけその一等級上の人民法院に上訴する機会が与えられます。その場合、一級上の人民法院によって行われた第二審(控訴審)の判決が確定判決となるわけです。確定判決に重大な瑕疵がある場合、当事者は確定判決を下した人民法院の一級上の人民法院に再審を申し立てることができますが、再審手続のハードルは非常に高くなっています。

2014年に北京・上海・広州に設立された知識産権法院は、中級人民法院と同格の位置づけになりますので、階層としては以下のような図になります。

法院と同格の位置づけ

知的財産権に係る訴訟の第一審は基本的に中級人民法院(知識産権法院の所在地においては知識産権法院)の管轄となりますので、従来、これらの第一審判決を不服として上訴する場合、高級人民法院への上訴となり、そこで出た判決が終審判決となっていました(高級人民法院が第一審となる場合もありますが、そこから上訴して最高裁判所で再審を行うことができるケースは稀でした)。

2019年1月1日以降は、最高人民法院への直接の上訴が認められることになりましたので、民事訴訟及び行政訴訟を含めた全ての控訴審は全て最高人民法院に集約されることになります。
ただ前述の第2条(1)をご覧頂ければ分かるとおり、民事事件に関して意匠は本規定の対象から外されているなどの例外がありますので、実務フローの把握に当たっては事案の十分な検討が必要になります。

(日本アイアール A・U)


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