技術輸入契約

2019年3月18日、≪国務院による一部の行政法規の改正に係る決定≫が公布され、≪中華人民共和国技術輸出入管理条例≫(以下、技術輸出入管理条例)が改正されました。
従来の技術輸出入管理条例には改良技術は中国側に帰属するなどの強行規定が設けられており、外国企業が中国に技術供与する上でのネックとなっていましたが、今回の改正によりこうした条項が削除されています。但し、中国の契約法その他の規定ぶりを見ていくと、一気に障壁が取り払われたわけではないと考えられます。

2019年3月15日、≪外商投資法≫が公布されましたが、その中には技術提携について「国家は外商投資の過程において自発性の原則と商業ルールに基づき技術提携が行われることを奨励する。技術提携の条件は投資の各当事者が公平の原則を遵守し平等に協議し確定する。行政機関及びその業務人員は行政手段を用いて技術の譲渡を強制してはならない。」(第22条第2項)という条項が盛り込まれています。今般の技術輸出入管理条例の改正も、この原則に則ったものと考えられます。

今回の改正で削除されたのは、以下の3つの条文です。

第24条3項

技術輸入契約の譲受人が契約の約定に従って譲渡人が提供した技術を使用した結果、他人の合法的権益を侵害する場合、譲渡人が責任を負うものとする。

第27条

技術輸入契約の有効期間内において、改良技術の成果は改良した側に帰属する。

第29条

技術輸入契約には以下に掲げる制限的条項を含めてはならない。
(1)譲受人に技術輸入に必須ではない付帯条件を求めること。必須ではない技術、原材料、製品、設備又はサービスの購入を含む。
(2)譲受人に特許権の有効期間が満了若しくは特許権が無効宣告された技術について許諾使用料の支払い又は関連義務の履行を求めること。
(3)譲受人が譲渡人に提供された技術を改良することを制限、若しくは改良した技術の使用を制限すること。
(4)譲受人が、譲渡人が提供した技術に類似若しくは競合する技術をその他の供給先から取得することを制限すること。
(5)譲受人の原材料、部品、製品又は設備の購入ルート又は供給先を不合理に制限すること。
(6)譲受人の製品の生産高、品種又は販売価格を不合理に制限すること。
(7)譲受人が輸入した技術を利用して生産した製品の輸出ルートを不合理に制限すること。

これらの条項は中国側に技術供与する外国企業にとっては当然のことながら不利な条件でしたので、削除されることは外国企業にとって朗報であるとも言えます。
しかし、ここで気をつけなければならないのは、中国国内の各種法律や司法解釈などにより、上記の3条と同様の縛りを受ける場合があるという点です。
主に関係してくるのは、「契約法」「最高人民法院による技術契約紛争事件の審理に適用する法律についての若干の問題に関する解釈」(法釈[2004]20号)であり、一部条項においては「独占禁止法」の角度からの検討も必要になります。

各法律の関連条文の対応を見ると、次表のようになります。

技術輸出入管理条例(削除された条項) 契約法 法釈[2004]20号 独占禁止法
第24条3項
技術輸入契約の譲受人が契約の約定に従って譲渡人が提供した技術を使用した結果、他人の合法的権益を侵害する場合、譲渡人が責任を負うものとする。
第353条
譲受人が約定に従い専利を実施し、技術秘密を使用し、他人の合法的な利益を侵害した場合、譲渡人が責任を負う。ただし、当事者に別途約定がある場合はこの限りではない。
   
第27条
技術輸入契約の有効期間内において、改良技術の成果は改良した側に帰属する。
第354条
当事者は相互利益の原則に従い、技術譲渡契約において専利を実施し技術秘密を使用した後に改良された技術成果の共有方法を約定することができる。約定がない若しくは約定が不明確であり、本法第61 条の規定により依然として確定できない場合、一当事者が後に改良した技術成果を他の各当事者が共有する権利はない。
   
第27条
技術輸入契約の有効期間内において、改良技術の成果は改良した側に帰属する。
第29条
技術輸入契約には以下に掲げる制限的条項を含めてはならない。
(1)譲受人に技術輸入に必須ではない付帯条件を求めること。必須ではない技術、原材料、製品、設備又はサービスの購入を含む。
(参考:第329条)
不法に技術を独占し、技術の進歩を妨害し又は他人の技術成果を侵害する技術契約は無効とする。
第10条
以下の情状は、契約法第329条にいう「技術の違法独占、技術進歩の妨害」に該当する。
(四)受け入れ側に、技術の実施に不可欠ではない付帯条件を受け入れるよう要求すること。これには必要ではない技術、原材料、製品、設備、サービスの購入及び不必要な人員の受け入れを含む。
第17条
 市場支配的地位を有する事業者が次に掲げる市場支配的地位の濫用行為を行うこと
を禁止する。
(5)正当な理由なく,商品を抱き合わせて販売する,又はその他の不合理な取引条件を取引に当たって付加すること。
※主体によっては適用可能性あり
(2)譲受人に特許権の有効期間が満了若しくは特許権が無効宣告された技術について許諾使用料の支払い又は関連義務の履行を求めること。 第344条
専利実施許諾契約は当該専利権の存続期間内においてのみ有効とする。専利権の有効期限が満了若しくは専利権の無効が宣言された場合は、専利権者は当該専利について他人と専利実施許諾契約を締結してはならない。
   
(3)譲受人が譲渡人に提供された技術を改良することを制限、若しくは改良した技術の使用を制限すること。

  第十条 (柱書は同上)
(一)当事者の一方が契約目的の技術に基づいて新たな研究開発を行うことを制限若しくは改良技術の使用を制限すること、又は双方の改良技術交換の条件が不平等であること、これには一方が自ら改良した技術を他の当事者に無償で提供すること、非互恵的に相手方に技術譲渡すること、当該改良技術の知的財産権を無償で独占又は共有することに関する要求を含む。
 
(4)譲受人が、譲渡人が提供した技術に類似若しくは競合する技術をその他の供給先から取得するのを制限すること。  
第十条 (柱書は同上)
(二)当事者の一方がその他の出所から技術供与側に類似した技術又はそれと競争関係にある技術の取得を制限すること。
 
(5)譲受人の原材料、部品、製品又は設備の購入ルート又は供給先を不合理に制限すること。  
第十条 (柱書は同上)
(五)技術受け入れ側の原材料、部品、製品又は設備等の購入ルート又は購入先を不合理に制限すること。
 
(6)譲受人の製品の生産高、品種又は販売価格を不合理に制限すること。
(7)譲受人が輸入した技術を利用して生産した製品の輸出ルートを不合理に制限すること。
  第十条 (柱書は同上)
(三)当事者の一方が市場のニーズに基づき、合理的な方法によって契約の目的である技術を十分に実施するのを妨げること。これには受け入れ側が契約の目的となっている技術を実施して生産する製品又は提供するサービスの数量、種類、価格、販売ルート及び輸出先を明らかに不合理に制限することを含む。
 

上記内容を見ますと、第24条3項における譲渡人の責任負担や第27条の改良技術の帰属については、別途約定があれば適用を免れると読むことができ、外国企業側に有利な条項になったようにも考えられます。

しかし、法釈[2004]20号の第10条1項には、禁止事項として「双方の改良技術交換の条件が不平等であること、これには一方が自ら改良した技術を他の当事者に無償で提供すること、非互恵的に相手方に技術譲渡すること、当該改良技術の知的財産権を無償で独占又は共有することに関する要求を含む」と明記されていますので、例えばアサインバック、グラントバックなどの条件を付するにあたっては極めて慎重な契約の作り込みが必要になると考えられます。

今般の改正により外資系企業にとってメリットが増えたかのように見えますが、改正の大元の考え方は外商投資法の制定と同じく、「内外一致」の理念、要するに国内企業と外資系企業の待遇は同じであるべきだというものですので、技術供与に関して、外資系企業に適用する特別法ではなく中国国内法で処理するようになったと捉えるほうがより自然であるようにも考えられます。

(日本アイアール A・U)


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